S-Booster主催
~ウイズ/アフターコロナをプラス宇宙で乗り越える~
宇宙の資源を活用したビジネスアイデアソン開催!
開催結果
開催日時
2021/02/20 (土)
2021年2月20日(土)、第2回アイデアソンが前回に続きオンラインで開催されました。新型コロナウイルス感染拡大にともない対面での開催が困難になった中、次回のS-Booster開催に向けた準備の一環として開催されたものです。
2020年は新型コロナウイルス感染拡大にともない、例年の形式での開催は見送られましたが、次回開催に向けた準備の一環として、宇宙ビジネスにつながるアイデアを、参加者の対話を通じて磨き上げる「ビジネスアイデアソン」をオンライン形式で開催いたしました。
参加者のバックグラウンドは前回同様バラエティに富むものでした。業種では商社、コンサル、航空、輸送機器、インフラ設備、医療、不動産やベンチャーなど。職種ではエンジニアリング、IT、広報や、大学の学部生・大学院生をはじめ、現役医師も加わり、多彩で多様な視点からの討議が行われました。
当日は、進行説明と主催者あいさつ、各人からのリレー形式での自己紹介に続き、衛星データ利用の現状を紹介しアイデアの種とするための「インスピレーショントーク」として、一般財団法人リモート・センシング技術センター(RESTEC)ソリューション事業第二部部長の向井田明氏が登壇しました。
まず向井田氏は、衛星ビジネス関連の市場規模が世界で約40兆円に達するいっぽうで国内では1兆円前後の規模感であるうえに、その大部分を通信や測位関連ビジネスが占めていることから、「リモートセンシングによる衛星データ利用は、まだまだ伸びしろがある市場」と位置づけました。
続けてリモートセンシングの定義や、取得されたデータがどのように活用されているかについて、たとえば「浅海面の色から水深を推測」、「海面高計測と地形から、水位上昇にともなう浸水マップを作成」、「作物の生育状況を推定」、「湛水力を指標に農地のポテンシャルを推定」など、具体的で多彩な活用例を示しました。
参加者からの質疑応答では、日本の衛星市場規模がまだ小さいことについて「衛星データの存在がまだ知られておらず、利用のハードルも高いと思われていることが一因。オープンでフリーな衛星データプラットフォームである“Tellus”など、データへのアクセスを促す方策に取り組んでいるところ」と説明。動物の動態観測の可能性についての質問では「研究レベルでは実例があり、足跡のトレースから棲息範囲の絞り込みなどは行えているようだ。衛星データ単独ではなく、これまでの観察から得られた生態モデルなどとの組み合わせで、害獣防護など実益のあるソリューションが見いだせるかもしれない」と解説しました。
続いてアイデアソンに向けたウォームアップとして、「ワールドカフェ」と呼ばれるセッションが行われました。このセッションでは事務局側で参加者をグループ分けし、設定されたテーマで自由にアイデアを語り合うものです。「自然」「暮らし」「働く」を宇宙と結びつけようという3つのテーマを設定、メンバーをシャッフルしつつ3ラウンドにわたり対話が行われました。それぞれのテーマごとに話し合われた主な内容は以下のようなもので、参加者が相互に興味の分野や方向性などを知り合う機会ともなりました。
Round 1:宇宙を使って「自然」の日常をよりよくするには?
・大気中の分子を宇宙からどのくらい見られるだろう?
・気候変動と昆虫の活動域を重ね合わせてみると何が得られる?
・自然エネルギーの発電データを衛星データと組み合わせ、電力グリッドの制御に役立てられないか?
Round 2:宇宙を使って「暮らし」の日常をよりよくするには?
・住みやすさ、暮らしやすさを衛星データで評価できないか?
・空き地活用のプラットフォーム・マッチングサービスを実現できないか?
・道路や駐車場の混雑をモニタリングし、個人の移動サポートすることは可能か?
・地球をキャンバスに人類全体で描くアートって、どんなだろう?
Round 3:宇宙を使って「働く」の日常をよりよくするには?
・コロナ禍で失われた「リアリティのあるミーティング」を促す仕組みとは?
・閉鎖空間で長時間過ごす宇宙飛行士、環境整備にヒントはないか?
・朽木を宇宙から見つけて事前に伐採し、ライフラインへの影響を最小化できる?
・病児保育所やシッターさんの居住密度をマッピングした「子育てしやすい街マップ」は?
参加者の相互理解が進んだところで、立候補制でチームオーナーを募集し、それぞれが自由意志で参加するチームを決める「チーム形成」に進みました。最終的に4つのチームができたところでランチに入りましたが、すでにそこからアイデアのやりとりは始まっていました。
そして午後からは、アイデアソンの核心部分である「共感ストーリーを構成する」セッションに入ります。
ストーリー構築に際しての専門知識サポート役として、JAXAの平松崇氏(新事業促進部事業開発グループ主査、J-SPARCプロデューサー)も参加。RESTEC向井田氏と各チームのブレイクアウトルームに出入りしながら、それぞれのビジネスアイデアが「収益性」「革新性」「社会発展性」をみたすものとなるよう、サジェスチョンやアドバイスを行いました。
4チームのビジネスアイデアがまとまったのは、午前10時の開始から6時間近くたった午後4時前のことでした。密度濃い話し合いの成果を、プレゼンテーションボードとともにご紹介します。
各チームのアイデアシート
ROOM 1
「増え続ける海洋ゴミを減らそう 〜海洋ゴミに希少価値を〜」
海洋を浮遊・集積するゴミで人工の島が形成されるほど、汚染は深刻化している。気象衛星や地球観測衛星など宇宙からのデータと船舶による観測データから、ゴミを追跡・回収し、燃料や繊維原料などに資源化する道すじを探る。直接的には海運業や漁業に貢献、長い目で見て海洋汚染の軽減、マイクロプラスチック削減につながる。
ROOM 4
「いえっぷ 〜暮らしを探す地図〜」
コロナ禍で家で過ごす時間が増え、周辺環境まで含めた住環境を見直す動きが広がっている。そこで、地域の騒音や空気の質、犯罪発生数などから導き出される「住みやすさ指数」と、地元ならではの情報共有・地域コミュニティへの参加も可能にするアプリを提供。付加機能としてサブスクリプション型の「お試し居住サービス」を提供。定額の支払いだけで、アプリが推薦する街に短期間滞在し、暮らしやすさを実感することができる。
ROOM 5
「Good Bye Bird ~空を宙が守る~」
空港周辺で暮らす鳥がエンジンに吸い込まれる事故「バードストライク」は、航空機に対する脅威となっており、現状は航空会社の多大な努力により安全が守られている状態。また既存の航空会社だけでなく、今後普及が見込まれるドローンなど新たなエアモビリティにとっても、鳥対策は喫緊の課題。そこで、宇宙からの観測データ(鳥の群れや生息地)、地上での観察、バイオロギング等の手法で鳥から収集したデータを組み合わせ、バードストライクの危険性を低減する環境設計(ルートや発着地の設定)をアドバイスする事業を立ち上げる。
ROOM 6
「AKITI Treasure Hunter 〜世界の森林やゴミをエネルギーに利活用するマッチングプラットフォーム〜」
人口減で空き地問題が顕在化しているが、空き地売買には、適切なマッチングプラットフォームが存在しないという問題がある。そこで、空き地活用のためのプラットフォーム「AKITI Treasure Hunter」を構築する。衛星データを使って土地資源の見える化を行うのがポイントのひとつ。単なる売買のマッチングだけでなく、用途が分からないばかりに未利用となっている空き地を、風力・太陽光・バイオマス等、自然エネルギーによる発電のためのインフラとして活用するなど、活用法についてのリコメンドも行うことで、取引を促進する。
1日がかりのアイデアソンに終日参加したRESTECの向井田氏は、「みなさん議論が上手で、話し合いの進め方もこなれていた。AKITI Treasure Hunterといえっぷは、コロナ禍という今の状況にフィットしていると思う。海洋ゴミ問題は、現在のわたし自身も取り組んでいるテーマであり、バードストライク対策は専門知識を生かした深い考察があった。いずれのみなさんも“自分ごと”としての課題解決に取り組んだ点で、想いと魂のこもったプレゼンテーションでした」と講評。
JAXAの平松氏も「海洋ゴミについては、もし将来これが炭素税のような国際的な枠組みができるとすれば、その所在を可視化し評価する仕組みが不可欠となる。大化けするかもしれない。いえっぷは、コロナ禍での価値観の多様化やパラダイムシフトを促すいっぽうで、街づくりに指標を与える仕組みになるかもと期待が持てる。Good Bye Birdは、ドローンなども視野に入れたシステムである点が秀逸。飛行安全はビッグビジネスなので、そこに関われるとなるとすごい。AKITI Treasure Hunterは、そもそもプラットフォーム化を目指そうという点が、褒め言葉だが、ズルい(笑)。巨大化し、さまざまなものと結びつく可能性を秘めている。暮らしやすい街づくりだったり、ドローンを飛ばしやすい街だったりと、他をのみこむ未来があるかもしれない」と、それぞれのビジネスアイデアへの感想と将来に向けた期待を語りました。
最後に参加した方々の声を聞いてみると「非常に勉強になった」「もっと勉強したい」「このチームでさらにチャレンジしたい」など前向きな声が聞かれ、S-Booster2021及び今後の宇宙ビジネス拡大に期待が膨らむ結果となりました。